手塚治虫のアンドロギュノスたち2

手塚治虫のマンガ作品には、男の子と女の子が入れ替ったりするお話が、
たくさんあります。そんな作品を楽しんでゆくコーナーです。(2003.6.2)
その2 少年少女マンガ

[1]少年マンガ1 +目次

[2]少年少女マンガ

[3]青年向作品

 『ケン1探偵長

 「おとなたちの気がつかない社会の事件は、みんなわが少年秘密探偵結社の仕事なんです」と、ケン1探偵長自身の説明の言葉があります。しかし、あまりこの言葉の意味にこだわらないほうがいいかもしれません。なかなか大冒険が多く、難問題も多いのです。
 ケン1探偵長はしばしば女装(じよそう)をします。中でも阿蘇へ向かう列車の中の洗面所でのシーンは、とても描写がリアルで、アイラインを引き、口紅を差し、完璧な少女に変身してゆきます。
 こういった描写へのこだわりには、作者のある種の執着心のようなものを感じてしまいます。動くものや姿が変ってゆくものに魅力を感じると、作者も言ってましたが、宇宙船などの乗り物の細かなディティールよりも、こうしたものを重視する人のようなのです。
 女装(じよそう)が好きで得意なケン1探偵長ですが、でもなぜかすぐに人に気づかれてしまうことも多いのです。もし誰にも気づかれなければ、それだけ事件の解決も早くなるような気もするのです。けれど気づかれないことで満足するよりも、やはり変身してゆくプロセスのほうが、作者にとっても楽しく快い感覚なのでしょう。
 ある犯罪事件にまきこまれたフランス人女優シトロンの男装シーンも、美しく哀れでした。

 『バンパイヤ 1966年

 満月を見ると狼男に変身するトッペイ少年は、木曽の山奥の部落に住んでいたバンパイヤ一族の数少ない生き残りです。バンパイヤ一族やトッペイのことを知ったロックという男は、おのれの犯罪的野望のために一族を利用しようと考えるようになります。

 狼男や狼女たちの変身自体もたいへんエロチックなものなのですが、ロックも女装(じよそう)によってたびたび「変身」し、そうしてトッペイ少年はロックとの拒みがたい関係におちいってゆくのです。

 ケン1探偵長と同様、リアルな化粧シーンが描かれます。(2003/6)

 『リボンの騎士 1953年

 天使のチンクのいたずらで、男の子の心と女の子の心の二つを持って生まれたのが、サファイヤ王女です。二つの心を持つとはいえ、サファイヤは基本的には女の子です。ところがシルバーランド国では、女の子は王位を継承できないため、サファイヤは男の子として育てられることになったのです。
 普段は男の子として気丈に振る舞うサファイヤですが、優しい母のはからいで、女の子らしいドレスを着て、心安らぐひとときを過ごすこともありました。
 神さまから罰を与えられたチンクは、サファイヤから男の子の心を抜き取って天に帰らなければならないのですが、王位を狙う悪人たちもいて、事情がなかなかそうさせずに苦難のドラマが展開してゆきます。
 男の子として振る舞っているけど、本当は女の子。天使のいたずらと、地上の国の事情と、どちらに主原因があるのかはわかりません。きっと両方なのでしょう。天使の罪によるさすらいは、あたしたちの遠い昔の記憶。天使のいたずらということになっていますが、ときどき神さまもいたずらをなさるようです。(2004/4)
つづく