変成女子とも表記します。旧Hatoko's Diaryからの数件の記事です。

中世の僧の世界

 室町戦国時代には日本中を旅して歩いた修行僧のような人が多かったらしいですが、なかには色白の美貌の若い僧もいて、宿をとった先で急にからだが異常をきたし、特に下半身が熱を帯びたりとかして……、一晩のうちに女性に成り変わってしまった、という話がいくつかあります。そして僧をやめて女性としてその土地で結婚して普通に暮らすようになったという話です。
 女性の半陰陽だったのかもしれません。けれど一般には性別の特別な人たちが生きてゆくための「受け皿」としても、僧侶の世界があったように思えます。男だけの社会だから男色が発達したというのではなくて、そういう人たちを救済する組織としても機能していたのでしょう。女性に成り変わってしまった場合は、俗の生活に戻りますが、そうでない人たちは一生涯、僧で暮らすのでしょう。そんな生活に憧れることもあります。
 (2004.10.01)

日本の「半男半女」

 古書店で見つけた『奇書』(岡田甫著 有光書房 昭和39年)という本にある話です。

 鎌倉時代の絵巻物『病草紙』(異疾草子ともいう)は、当時のいろいろな奇病の姿を描いたもので、半陰陽の絵もあるとか。酒に酔った男(?)が前もあらわに寝ころんでいて、周囲の人がそれを見て笑っているのか喜んでいるのか、そんな絵だそうです。
 種子島に鉄砲が伝来した二年前の天文十年(1541)、『奇異雑談集』という本が書かれ、女性になった若い僧の話がいくつかあるようです。著者は「中村豊前守の息子」という人。

 「下野国足利の町の若い坊さん、怪しからん部分がどうも痒くて耐まらない。熱湯でしきりに温湿布をつづけたところ、次第に痒みが薄らぐとともに突起物が縮まり、ついに女のものと化した。そこでついに坊さんをあきらめ、さる造酒家に嫁入りして子を二人も生んだ。」(「奇書」より)

 越後の若僧が近江国島郡枝村の宿に滞在中、不思議な夢を見て、朝おきたら陰部が変化していた。僧の様子がおかしいのを心配した宿の主人が、いろいろ事情を聞いているうちに欲情して、事実かどうか確認に及んだ。主人は独り身だったので、若僧はそのまま宿の主婦におさまったとか。

 僧の話が二つですが、むかしは特殊なからだの人はみな、神仏に近い存在なので、僧になったのかもしれません。しかし完全な女性のからだに変化した場合は、俗世間に戻らなければいけなかったのかも。
 南方熊楠『浄のセクソロジー』(河出文庫)の中の「鳥を食うて王になった話」にも同じ話があります。南方熊楠が集めたたくさんの話を、今の若い人にも読みやすい文章で紹介してゆけたらいいんですけどね……。
 
★補足 『奇異雑談集』は、岩波文庫の『江戸怪談集 上巻』(高田衛-編)に、オリジナルが収録されています。

変生女子二件

 江戸の実相坊という学僧が、信州のある家に何日か宿をとったとき、思いがけない熱病にかかり、ようやく回復して行水をしてみたら「男根落ちて女根となる」。それ以来、学問のことは忘れてただの凡人となり、酒屋の妻となったという。

 上州藤岡から秩父へ経帷子(きょうかたびら)を行商する僧が、山家のとある酒屋を訪れてみると、以前一緒に旅した僧によく似た女房がいた。顔を隠そうとする女房に、僧が「私の知る僧の姉妹であろうか」と尋ねると、涙を流して奥へ行ってしまった。次に酒屋に寄って再び尋ねたとき、女房は、姉妹ではなく本人であり、病気にかかったときに男のものが落ちて、かくなる次第という。寛永年間の話。

 『因果物語』下。( 南方熊楠『鳥を喰うて王になった話』より)
 (2004.10.16)

 

『和漢奇事変生男子之説』

 
 幕末のころの本『和漢奇事変生男子之説』というのがあります。"日本初の「両性具有文献集」"という副題で、久米晶文さんという人が作ったものが次のところからpdfファイルをダウンロードできるようになっているのを見つけました。(その後、ダウンロード不能)
 http://kiyo.nii.ac.jp/articles/ncid/AN10437283/20020331_3.html
 変生男子とはからだが女性から男性になった人のことで、その逆の変生女子の話もあります。『奇異雑談』からの引用の話もあります。
 月の半分は男性で、半分は女性だった人の話もありました。書いた人は「人間が人間に変るだけ」なので奇妙がることもないと述べています。
 (2004.10.10)

「男が女に変わった話」

 欧州の古典の話。ツレシアスという男が、蛇の交わるのを見て、そのメスを殺したら女になった。7年後にまた蛇の交わるのを見て、今度はオスを殺したら男に戻った。

 中国の蜀の時代、都に仕えていた男が美しい女になり、蜀王は見初めて妃にしたが、妃は環境になじめず夭逝したので、王は哀れんで高さ七丈の塚を造って葬った。(『蜀志』)

 インド。パルヴァチの森に入れば男は女になる。
 インドのソランキ王の子は、みな生まれてまもなく死んでしまったが、一人の王女を男子として育てたら健康に育った。成人してある王女と婚約をとりかわしたが、王は素性がばれないか心配になってしまった。王が狩りに出たとき、連れていったメス犬が森の池で水浴びをして、水から出たときはオス犬になっていた。そこでその池で王女を水浴びさせると立派な王子になり、めでたく結婚式を迎えることができた。(『グジャラット民俗誌』)

 仏典。阿那津尊は、美貌の女性のように見えた。悪漢が彼を犯そうとしたとき、男子と知って、悪漢は女に化り変わってしまった。男は恥じ入って深い山に入ったきり戻らなくなり、それを嘆く妻を見て哀れんだ阿那津は、その者を探し出して悔過自責させたら、男に戻った。(『旧羅譬喩経』)
……南方熊楠『鳥を喰うて王になった話』より
 (2004.10.4)
Hatopia