稚児之草紙

稚児之草紙『稚児之草紙』という絵巻物は、稲垣足穂の『少年愛の美学』という本でよく知られるようになったものと思います。トランスジェンダーだけでなく、男色やゲイ、ボーイズラブ(BL)の分野でも知られた文献ということになります。真言宗のお寺で保存された稚児の草紙の奥付には、元享元年(1321)とありますので、鎌倉時代末期という時代になります。
5つの逸話が書かれています。

第一段
仁和寺の高僧に寵愛される稚児が、最初の床入りのための準備をする話。「めのと子」という養育係の男に手伝わせ、張形も使うけれど、男の実際の物でも稽古します。現代的な意味での初体験の相手は、めのと子の男ということになりますが、そこは価値観の異なる時代の話です。秋夜長物語など他書の例によれば、稚児の床入りの年齢は十六歳です。
「めのと子」とは、通常の高貴な子なら乳母(めのと)に養育されるのですが、女人禁制の場所なので男子がそれに当たるのでしょう。
ローションとして丁字油を使ったといいます。丁字油は、フトモモ科の樹木である「丁字(チョウジ)」から採取される油で、刀の手入れなどにも使用されるらしいです。
いざ床入りの直前に、火鉢で稚児のお尻を温めるとか(画像参照)。

第二段
新かまの里で、心ざしの深い僧と稚児が、秋の夜に萱群の中で密会する話。毎夜のことになっても人に知られることがなかったのは、本尊の御助けによるものだといいます。
「心ざしの深い」とは、仏法への志、そして僧と稚児との愛情とが、合一されたものとしているようです。密会のような形でも本尊のお助けがあるというのは、そのためなのでしょう。親しい関係は生涯続いたといいます。

第三段
嵯峨の辺の高僧に寵愛されている稚児が、自分に深い思いの下級の僧がいることを知り、僧を呼んで湯に入る手伝いをさせたときに、その思いを受け入れる話。
本尊の話は出てきませんが、高貴な稚児は、下級の僧へ施しをするものだということでしょう。

第四段
法勝寺の高僧に寵愛される稚児が、自分への思いに痩せ衰える下級法師を呼んで、足を洗わせるときに、情けをかける話。他の下級の僧侶たちに対しても同様であったといいます。
趣旨は第三段と似ていますが、稚児からの施しは複数の僧に及びます。

第五段
北山の高僧が稚児を寵愛しすぎて、他の寺の僧はあまり立寄りにくくなっていたのでしたが、ある若い僧が稚児に思いを寄せ、稚児の寝室(塗籠)に潜みました。稚児はすぐに気付きましたが、驚くこともなく、物語りを諳誦しながら、外に気づかれぬように若僧をもてなしたという話。
物語とは、幼少の童を寝かせるために聞かせたのでしょう。このお寺ももう少し心を開くように、若い僧と稚児の心ざしがきっかけになったということなのかもしれません。高僧といえども一人の稚児を独占するのは好ましくないということでしょう。
五段の話とは別の絵がいくつかあり、詞書に「ばさら(ばさら」という言葉が使われているものがあります。
(「足穂版男色大鑑」付録の復刻絵巻「稚児草紙」等をそのまま通読してまとめました)
原文の 読下し・稚児之草子 も御覧下さい。

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