牛、死を知って泣く

むかし阿波国(徳島県)の長谷川越前という武士が、所用のために城下のある家を訪れると、庭先につながれていた一頭の牛が、空を見上げながら、目からいっぱい涙を流していました。不審に思った越前が門番の者にわけを尋ねると、この牛はまもなく家の主人の薬用のために食されるのだと言いました。(当時は四つ足の動物を食べることには禁令が出ていたのですが、肉が薬になるのだいえば問題なかったらしいです。)
牛の目は越前に何かを訴えかけるようでした。越前はこの牛を憐れに思い、所用を後まわしにして、すぐに殿様のもとに参上しました。話を聞いた殿様(蜂須賀公)は深く感じられて、特別のはからいにより、牛は越前に引き取られて育てられることになったとのことです。

これは曲亭馬琴の『兎園小説余禄』を読んでみようと手にした本にカップリングされていた神谷養勇軒という人の『新著聞集』の中の話です。

口蹄疫のために処分されるという数十万頭以上の牛の涙は、全部でどのくらいの分量になるでしょうか。

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